遺言書を作成する前にぜひ押さえておきたいポイント
法定相続分
遺言がない場合、相続財産は民法で決められた割合で各相続人に配分されます。
これを法定相続分といいます。
たとえば、夫が亡くなり遺族が妻と子ども2人の場合、法定相続分は妻1/2、子が各1/4ずつとなります。
遺留分
遺留分とは、相続人の権利として最低限保障された相続の割合をいいます。
夫が亡くなり相続人が妻と子ども2人の場合、遺留分は法定相続分の1/2となります。
妻の遺留分は「法定相続分1/2×1/2=1/4」、子の遺留分はそれぞれ「法定相続分1/4×1/2=1/8」となります。
遺言で「全財産を障害のある子に相続させる」としていても、他の相続人より遺留分侵害額を請求されると、その相続人に対して金銭を支払わなければならなくなりますので注意が必要です。
法定相続分と遺留分
遺言の種類
遺言には数種類の方式がありますが、中でも自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがよく利用されます。
それぞれの特徴は以下の通りです。
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自筆証書遺言
自筆証書遺言は遺言者自身が全文と日付を自筆で書き、
署名押印します。
費用がかからずいつでも手軽に作成できるというメリットがありますが、反面、次のようなデメリットもあります。
- ・遺言の存在は書いた本人しか知らないため、
死亡後に誰も見つけられなくなる可能性がある。(※1)
- ・偽造、隠匿の恐れ。
- ・検認(家庭裁判所で相続人立ち会いのうえ遺言の確認をする)の手続きが必要。(※2)
- ・形式要件を満たさず法的に無効になる可能性がある。
- ・被相続人の意思により書かれたのかどうかをめぐり
争いになる可能性がある。
- ・上記により遺族に精神的な負担や労力を負わせてしまう。
※1、2 令和2年7月10日より法務局にて遺言書を保管する遺言書保管制度が開始されました。
この制度を利用すれば紛失のリスクはなくなります。
また、検認を受ける必要もありません。
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公正証書遺言
公正証書遺言は公証役場にて公証人に作成してもらいます。公証人だけでなく証人2人も立ち会いますので、遺言者の意思で作成されたものとして信ぴょう性が高くなります。
自筆証書遺言と違い、法律の専門家が作成しますので法的に無効になることはありません。遺言書は公証役場に保管されます。ただし、以下のデメリットがあります。
- ・公証役場に出向いて行わなければならない。
- ・証人2人が必要(※)
- ・遺言の内容を公証人と証人に知られてしまう。
- ・費用がかかる。
※以下の人は証人にはなれません。
- ・未成年者
- ・推定相続人、受遺者、これらの配偶者・直系血族
- ・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
公正証書遺言のおすすめ
当相談室では、上記2つの遺言方式のうち公正証書遺言をお勧めしております。
自筆証書遺言、公正証書遺言それぞれにメリットとデメリットがありますが、
無用なトラブルを回避し確実に遺言の内容が実行できるという点では公正証書遺言は優れた方式といえます。
当相談室では公正証書遺言の作成サポートを行わせていただきます。
遺言執行者の選任
障害をもった子どもは遺言で親の財産を相続することになったとしても、
自分自身で金融機関等にて必要な手続きを行うことは困難と思われます。
相続人に判断能力がない場合、相続手続きのためには成年後見人が必要になりますが、
遺言書で遺言執行者を指定することにより成年後見人は不要となります。
遺言執行者は遺言の内容を法的に実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有します。
遺言執行者がいる場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるような行為をすることはできません。
遺言の内容を実現するためにも、あらかじめ遺言執行者を指定おくべきです。
なお、遺言執行者は1人ではなく複数人指定することもできます
付言を残すこと
付言には法的な効果はありませんが、遺言者の思いを相続人に伝え、相続人間のトラブルを防止するという点で効果があります。
たとえば、遺言の内容が障害のある子どもに手厚く財産を残すものとなっているのを見ると、
他のきょうだいは必ずしも快く思わず、わだかまりが残ってしまうかもしれません。
遺言者である親はすでに亡くなっているので、どのような思いで遺言を書いたのか説明することはできません。
しかし、付言として遺言書の中で親の思いを伝えておくことにより、相続人同士の関係悪化を防げるかもしれません。
付言を残す際には、相続人たちへの不平、不満といった否定的な内容とせず、生前の感謝の意を伝えることが重要です。
内容によっては逆効果になりかねませんので、ご注意ください。
事前の家族間の話し合い
以上、遺言書を作成する場合の注意点を述べましたが、
最も重要なことは、常日頃から家族間で相続が発生した時のための話し合いをしっかり行っておくことです。
遺言を通じてではなく、生前から直接コミュニケーションをとり、親の思いを家族に伝え、
どのように財産を継がせたいのか、家族の意見を交えながら取り決めておけば相続をめぐっての争いは十分に防げるものと思います。
円滑な相続手続きのためにも、事前の気配りはとても重要です。